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『米国弁護士によるビジネスモデル特許事例詳説』
2000年7月、ジェトロより出版されました。ジェトロの本書紹介ページは、こちら
本書の概要として以下の「はじめに」をご覧下さい。

本書では28件の米国ビジネスモデル特許事例を要約、解説しています。例えば、2000年6月27日に、Yahoo!が請求棄却を得た、ファンタジースポーツ社のシミュレーションフットボール特許は、以下のように要約、解説しています。

<特許の概要>
本 特許は、フットボール選手の実際の成績を基にコンピュータ・システム上でフットボールゲームを行う方法に関するものである。このゲームの参加希望者は、最 初のドラフトで、実際の選手を選択し、フランチャイズと呼ばれる自分のチームを作成する。ゲームの勝敗は、選択した選手の実際の成績に基づき計算されるポ イントにより決定される。このポイントの計算は、自動的にも行うことができるし、また手動でも行うことができる。
<クレームの要約>
クレーム1は、実際のフットボールの試合に基づきフットボール・ゲームを行うコンピュータに関するものである。このコンピュータは、以下の装置を含むものである。

個人のフットボール・フランチャイズを設定する。
フランチャイズにフットボール選手をドラフトする。
スターティング選手名簿を選択する。
フットボール選手をトレードする。
実際の試合を基に各フットボール選手の成績をスコア化する。これにより、自動的にフランチャイズの勝敗が計算される。

選手のスコアは、第1グループのクォーターバック、ランニングバック、レシーバー、および第2グループのキッカーから算出される。

<コメント>
本特許は、方法やシステムに関する特許ではなく、コンピュータという装置に関する特許であるが、そのコンピュータが行う仕組みがビジネスモデル特許に近いものであると思われるので、本書に含めた。本 特許の権利者であるFantasy Sports Properties, Inc.は、fantasysports.comというサイトを運営しており、そこで本特許で記述された内容のゲームを主催している。以下の通り、 Fantasy Sports社は、本特許に基づき、積極的に訴訟を提起している。1999 年12月28日、Fantasy Sports社は、Sportsline.com, Inc.、Yahoo! Inc.、Sandbox.com、およびESPN Starwave Partnersが本特許を侵害しているとして、バージニア州東部地区の連邦地方裁判所に訴訟を提起した(事件番号2-99CV2131)。本訴訟はまだ 初期段階であり、実質的な判断や決定はなされていないものと思われる。ただ、Fantasy Sports社の弁護士は、被告らが本特許と同様のシステムで大きな利益を上げているので、損害額は2億8,500万ドルに上ると述べている。

ま た、1999年12月30日、Fantasy Sports社は、USAtoday.comを運営しているGannett Company Inc.が本特許を侵害しているとして、同じくバージニア州東部地区の連邦地方裁判所に訴訟を提起した(事件番号2-99CV2139)。本訴訟は、 2000年3月2日、和解により終結している。和解の内容は公開されていないが、Gannett社はライセンスの供与を受けたと報道されている。ライセン ス料は、Fantasy Sports社が要求していた本システムに関して生じた収益の10%に近いものと報道されている。Gannett社は、上記被告らと異なり、本システムで の収益は僅かであるので、訴訟費用等を考慮して、和解に応じたものとされている。

更 に、Fantasy Sports社は、2000年3月、cnnsi.comを運営しているTime Warner社、およびFoxsports.comを運営しているNews Digital Media社に対して、同様の訴訟を提起している(事件番号2-00CV00179)。本訴訟もまだ初期段階であり、実質的な判断や決定はなされていない ものと思われる。

はじめに
ミ レニアム最後の年であった1999年は、インターネットの爆発的普及の年であり、この傾向は、2000年以降も継続していくであろう。このインターネット の普及により、企業活動や市民の暮らしは随分便利になった。取引先に出向かなくとも商品の説明、売買から決済まで全てを行うことができ、また、自宅に居な がら、様々な商品を注文できるようにもなった。このような便利さを可能にしている仕組みの中には、「ビジネスモデル特許」と呼ばれるものがある。「ビジネスモデ ル特許」という言葉は、昨年来、日本の新聞、雑誌を賑わしている。米国からの「新たな黒船の襲来」など、センセーショナルな見出しにより、日本国内では必 要以上の危機感が煽られている観もある。本書では、議論の発端となっている米国のビジネスモデル特許を分析することにより、日本における議論、理解に資す ることを目的としている。なお、米国では、一般的に、Business Method Patent(ビジネス方法特許)と言われるが、本書では、日本に合わせ、ビジネスモデル特許という用語を用いることとする。ビジネスモデル 特許も特許である以上、それを理解するためには特許法の基本的理解が不可欠である。そこで、本書では、まず、米国特許法概観という第1章を設け、米国特許 法の概略を説明する。そして、第2章でビジネスモデル特許の概説を行った後、第3章では、具体的な特許、裁判例を分析する。なお、本書は、 ビジネスモデル特許の一般的な説明を目的とするものであり、自社の発明がこの事例集に含まれている特許を侵害するかどうかは個別に検討する必要があること に注意されたい。また、その個別の検討に際しては、各クレームの文言を厳密に検討していく必要があることから、本書では、クレームを敢えて翻訳せず、原文 のまま掲載した。読者の便に資するため設けた「クレームの要約」の項では、クレームの翻訳に相当する部分もあるが、これはあくまで参考訳であり、特許の範 囲を定めるものではないことに特に注意されたい。また、クレームの原文自体が非常に技術的、専門的用語を用いており、一般人には理解し難い文章となってい る。本書では、原文の意味を変更しない限りにおいて、分かりやすい表現を用いるように努めたが、コンピュータ関連の専門用語等も多く、それらの理解がある 程度の前提になることを御了承頂きたい。

本書が、日本の企業や発明家の方々がビジネスモデル特許を理解するのに僅かでも役立てば幸いである。

2000年6月 シカゴにて 弁護士 土谷 喜輝

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